映画 聲の形

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一度観ただけじゃよくわからず(でも感動したので)、原作を買って読んで、もう一度映画を観た。物語としては原作の方が情報が多いので、おもに映画の観せ方について考えてみたい。

原作の要素をきっちり活かしながら、映画に見事にエンコードしていると思う。運動を軸に置いた山田尚子の演出が力強く生き生きとして、キャラクターに寄り添う視点はあたたかい。

山田尚子の十八番であるところの、投げる、落ちる、の演出は原作でも重要なモチーフで、当然この映画でも存分に観ることができる。

まず投げるという行為については、石田が西宮の補聴器を投げ棄てるところに始まり、西宮に石や砂を投げる石田や、黒板に悪口を落書きした後に挿入されるチョークや黒板消しを投げ置くカットなど、断絶と暴力のイメージが先行する。しかし、西宮のん鯉にパンを投げ与えるという行為により、その意味は180°転換する。
思えば山田尚子監督作『たまこマーケット』と『たまこラブストーリー』において、投げるという行為はたまこともち蔵の糸電話によって、第一にコミュニケーションそのものの象徴としてあった。この映画においても同様で、つまり投げるという行為のベクトル、奪うか、与えるかによって、コミュニケーションは断絶もするし、築き上げられもするのである。

次に、落ちるという運動はこの作品においては、主人公である石田将也の性質のようなものになっている。度胸試しとして落ちることを繰り返していた小学生の石田は、まさしく想像力が欠如した存在であった。面白そうだからというだけで、結果について想像することなく行動する彼のその向こう見ずさが、後の事態を招いたとも言える。しかし高校生になった石田が、まさにその落下によって死を選ぼうとした後、相変わらず持ち前の向こう見ずさに起因した落下によって西宮硝子に何かを与える(厳密には返す)ことになる。しかも2度も。この、ある人間の性質をそのまま承認するような視点に感動する。これは川井の言葉で言えば、「自分のダメなところも愛して前を向くしかない」ということに、彼ら自身が気づくことである。
また、落下ということでは、西宮と石田が初めて橋で会うシーンで舞い落ちる桜の花びらと、それに予感されるラストシーンでの花吹雪も忘れられない。このような、超越した視点からのささやかな祝福めいた視点は原作より映画に色濃い要素であった。物語の最初のきっかけであるパン屋の割引券が、漫画では街頭で配られるが、映画では風に乗って舞ってくる。あるいは、何度か挿入される飛行機のカットもそのような視点を観客に意識させる。特に橋でのトラブルのあと、交差する6本の電線の上を通る飛行機雲など。このへんが山田尚子のあたたかさなのかもしれない。

原作でも映画でも最重要モチーフなのは水である。そもそもアニメは水を描くべきメディアと思うくらい相性がいいものと思うが、それを上手に演出にしている。クライマックス、将也が水に落ちたときに発せられる「つめたい、あったかい」のセリフ、この映画の水はそのような二面性をもつ。
まず、濡れるという状態は罰として描かれている。将也が同級生にいじめられるようになってから池に落とされたり、ホースで水をかけられたりは言うまでもなく、雨に濡れる結弦や植野もそれぞれに罪を背負った状態ではないだろうか。
しかしそれとは別に、橋から落ちたときの水は、むしろ彼らを包み込むように見え、ときには筆談ノートという贈り物さえ与える(原作では違う)。これも2度。鯉に餌を与えるのが生き甲斐になっていた硝子には、水が寄り添っていたとも言える。そのイメージはおばあちゃんの葬式の一連のシークエンスにもふんだんに取り入れられている。涙と汗も忘れてはならない水だった。将也にとっての母の涙、西宮にとってのクライマックスで落ちる将也の汗など、それらは生きる理由になりうるほどの水である。

他に山田尚子演出ということでいえば、足が思い当たる。記憶では山田尚子は足のクローズアップをやたら使うイメージがあるが、それはこの映画でも同様である。この映画で足のクローズアップは、見れない聞けないという将也にかかった呪いを意味するショットになっている。これがあってこそ、高校生の石田と西宮が2度目に会うところなど、バッチリ視線の合う切り替えしが活きるようになっている。
これまで書いたこと全部、原作の要素と監督の作家性がうまいことマッチしている。山田尚子以外での映画化は考えられないくらいかもしれない。

あと劇伴が今年ベスト。聴こえると聴こえないの間にあるようなピアノが映画のテーマにもそっていてすごく好き。悠木碧さんいままでも上手いとは思ってたけど今回で完全にすごいことがわかった。aikoの主題歌も結構好き。
にしても今年はアニメ映画のレベルが高い。傷、これ、レッドタートルあたりは年間ベスト候補。真打『この世界の片隅に』はこれからなのに。


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